東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)81号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。
1 本件審決が引用例に記載された技術内容の解釈を誤つたことについて。
(一) 引用例の記載内容が、本件審決認定のとおりであることは、原告の認めて争わないところであるところ、原告は、本件審決が、本願第一発明と引用発明とを対比判断するに当たり、「引用例の各ゲート回路281~28Zは電磁ピツクアツプ18、18´と磁性体円板13、13´との間の完全な一回転により、それぞれ一回ずつ位相差信号としての基準パルス信号をゲートし、オア回路31に代わる「加算機能を有する回路」は前記一回転の間にゲートされる総ての基準パルス信号を累積するものと認められる」旨の認定判断をしているが、引用発明は、「完全な一回転」に基づいておらず、このような認定判断は、誤つたものである旨主張するので判断する。
成立に争いのない甲第八号証(昭和四八年特許出願公告第三二七四二号公報)によれば、引用例には、各ゲート回路281~28Zとオア回路31を通過したパルス列のパルス数の計数について、「符号変換器26´の第一番目の信号出力と、符号変換器26の第一番目の信号出力によつて、フリツプフロツプ回路271をセツト及びリセツトせしめると、第6図e1のようなゲート制御信号が得られる。よつて、この信号により、ゲート回路281の開閉を制御し、これを通過する基準パルス発振器29よりのパルス信号を、オア回路31及びプリセツトカウンタ33により制御されるゲート回路32を介して、カウンタ34に導入計数せしめることにより、……位相差の絶対値の測定を行うことが出来る。」(甲第八号証(3)頁5欄三三行ないし四四行)と記載されていることが認められる。そして、引用例の第5図に示されるゲート回路32及びプリセツトカウンタ33を要件とする発明は、プリセツトカウンタ33に設定された所定の時間だけ基準パルス信号を累積するものであることは、被告の認めるところであるから、以上の事実を総合すると、引用発明のゲート回路32を通過してカウンタ34に導入されるパルスは、プリセツトカウンタ33のプリセツト時間によつて定められる期間(即ち、所定の時間)にゲート回路32を通過したパルスであることが認められる。
そうすると、引用例には、プリセツトカウンタ33のプリセツト時間の間のみゲート回路32を導通させ、この期間にゲート回路32を通過するパルスの総数を計数する技術が示されているにすぎないというべきであり、回転円板の一回転の間にゲート回路32を通過するパルスの総数を計数するものが示されているとはいえないので、原告指摘の本件審決の前記認定判断は、誤りといわなければならない。
(二) 被告は、引用例の特許請求の範囲第2項には、第5図に示されたゲート回路32及びプリセツトカウンタ33を要件としない発明が記載されており、即ち、「第一又は第二の回転円板」の歯数と等しい数のゲート回路を設けることと、「これらのゲート回路を各別に通過する基準パルス信号の総数を計数するカウンタ」を設けることが記載されているのであり、そして、回転円板13、13´の歯数と同数のゲート回路を各別に通過する基準パルス信号を計数するためには、該計数を回転円板の完全な一回転の間だけ行うべきことは自明であるから、したがつて、引用例には、回転円板の完全な一回転の間だけ各ゲート回路を各別に通過する基準パルス信号の総数を計数することが記載されているということができ、してみれば、「オア回路31に代わる「加算機能を有する回路」は、前記一回転の間にゲートされる総ての基準パルス信号を累積するものと認められる」との本件審決の認定判断に誤りはない旨主張する。
なるほど、前掲甲第八号証によれば、引用例の特許請求の範囲第2項には、被告指摘の、「第一又は第二の回転円板」の歯数と等しい数のゲート回路を設けること及び「これらのゲート回路を各別に通過する基準パルス信号の総数を計数するカウンタ」を設けることが記載されていることは認められる。しかし、該基準パルス信号の計数を回転円板の完全な一回転の間だけ行うことは、右特許請求の範囲第2項にも、引用例の発明の詳細な説明の欄にも全く記載されていないこと及び右事実を示唆する記載もないことが認められる。しかも、右甲第八号証によれば、引用例の発明の詳細な説明の欄には、該計数に関して、カウンタ34を用いること及びカウンタ34に入力されるパルスはゲート回路32を経由することが示されているだけであつて、右ゲート回路32を省略し得る旨の記載はないことが認められるのである。
そして、以上のことに、以下に述べることを併せ考えれば、引用例の特許請求の範囲第2項には、第5図に示されたゲート回路32及びプリセツトカウンタ33を要件としない発明が記載されているとする被告の主張は誤りであるといわざるをえない。即ち、右甲第八号証によれば、引用例には、引用発明の「加算機能を有する回路」に関して、「オア回路31を加算機能を有する回路を以て形成してもよく、この場合には、ゲート回路281~28Zよりのパルスの一部が重複しても差し支えないから、遅延回路等の必要はない。」(甲第八号証(5)頁9欄二九行ないし三二行)と記載されていることが認められるところ、右記載は、同号証によれば、(イ)「加算機能を有する回路」は、引用例の第5図に示されたゲート回路32及びプリセツトカウンタ33を要件とする角度コーダに用いられているオア回路31に代えて用いられるものであること、(ロ)この「加算機能を有する回路」をオア回路31に代えて用いることによつて、ゲート回路281~28Zを通過する基準パルス発振器29からの基準パルスが同時に重なつて入力されても、重なつて入力された複数個のパルスを一つのパルスとして計数することなく、それぞれのパルスの数を計数することができるので、各パルスに時間差を与えるため、換言すれば、複数のパルスが重複することを防ぐために設けられた各遅延回路302~30Zを省略できることを、説明していると解することができるので、そうすると、引用発明の「加算機能を有する回路」は、オア回路31の代わりに用いられるものであり、その場合には、単に遅延回路を不要とするにすぎないものであり、オア回路31の後に続く、ゲート回路32及びプリセツトカウンタ33は依然として必要とされるものであり、しかも、右の「加算機能」とは、同時に二個の基準パルス信号が入力された場合、それらを識別して二個のパルスとして出力するようにしたものであり、その意味で加算機能を有するにすぎないものであるから、「加算機能を有する回路」は、基準パルスを計数するものということもできないのである。
したがつて、回転円板13、13´の歯数と同数のゲート回路を各別に通過する基準パルス信号を計数するためには該計数を回転円板の完全な一回転の間だけ行うべきことが、被告主張のように自明であるかどうかを判断するまでもなく、引用例には回転円板の完全な一回転の間だけ各ゲート回路を通過する基準パルス信号の総数を計数することが記載されているということができる、との被告の主張は採用することができないのであり、本件審決が、「オア回路31に代わる「加算機能を有する回路」は前記一回転の間にゲートされる総ての基準パルス信号を累積するものと認められる。」とした認定判断は誤つているといわざるをえない。
(三) また、被告は、引用例の第5図に示されるゲート回路32及びプリセツトカウンタ33を要件とする発明においても、等分したはずの円周が、個々のピツチに乱れを生じたとしても、それらのピツチのずれを加算したものが、該円周の完全な一周により零になることが一般常識であることを理由に、引用例には、回転円板の完全な一回転の間だけ導通状態にしておくことが開示されている旨主張するが、前叙のとおり、引用発明は、プリセツトカウンタ33に設定された所定の時間だけ基準パルス信号を累積するものであり、測定のタイミングは回転円板の回転動作と何ら同期がとられていないと理解するよりほかないのである。したがつて、仮に一回転に相当する時間をプリセツトカウンタ33に設定したとしても、回転円板は、厳密に一定の速度で回転することができず、速度変動があることは技術常識上自明の事項であるから、完全な一回転に相当する測定時間は得られないといわざるをえないのである。(時間を基準に計数すると、計数値が回転円板の回転速度変動の影響を受けることが自明であることは、被告の認めるところである。)したがつて、仮に、被告が主張するとおり、ピツチのずれを加算したものが回転円板の円周の完全な一周により零になることが一般常識であるとしても、引用発明が、右一般常識なるものを採用していることを認めるに足りる証拠がない以上、被告の右主張も採用できない。
(四) 以上のとおり、本件審決は、引用例に記載された技術内容の解釈を誤り、原告主張の点においてその認定判断を誤つたものである。
2 本件審決が本願第一発明と引用発明との間に存する相違点を看過誤認したことについて。
本件審決が、引用例に記載された技術内容の解釈を誤つたことは、叙上認定のとおりである。そして、この認定からすると、本件審決は、本願第一発明と引用発明との間に、原告主張のとおりの相違点が存するにかかわらず、これを看過誤認したものといわざるをえない。
3 本願第一発明が、原告主張(請求の原因四3)の効果を奏することは、当事者間に争いがない。そして、右1及び2に認定の事実に、成立に争いのない甲第二、第三、第六、第一〇号証、前掲甲第八号証を総合すれば、本件審決は、本願第一発明の奏する右効果が、引用発明にはない特段の効果であることを看過誤認したものといわざるをえない。
4 以上の次第であるから、本件審決には、その認定判断に誤りがあり、これが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本願第一発明をもつて引用例に記載のものに基づいて当業技術者が容易に発明できたもので、特許を受けることができない、とした本件審決は、違法として取消を免れないものである。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるのでこれを認容することとする。
〔編注1〕本願発明の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、これを「本願第一発明」という。)の要旨は左のとおりである。
(ⅰ) 第一の回転軸(7)の軸心にほぼ一致するように配置された第二の回転軸を中心として、第一インジケータ(TF・TF〇・TF180)及び第二インジケータ(6・TM・TM180)を含む第一インジケータ・グループと、少なくとも第三インジケータ(5・50)を含む第二インジケータ・グループとの間で、相対的な回転を起こさせ、
このとき、各インジケータは、第一の回転軸(7)に関連する、第一インジケータ(TF TF〇・TF180)及び第二インジケータ(6・TM・TM180)を含む第一グループか、或いは、第二の回転軸に関連する、少なくとも一個の第三インジケータを含む第二グループのいずれかに帰属し、更に、
いずれか一方のグループのインジケータには、第一の回転軸の周囲に等間隔に形成された一連の基準マーク(51・52)を含むものとし、
(ⅱ) 一方のグループのインジケータの前を他方のグループのインジケータの基準マークが通過するとき、それに対応した二つの系列の一致信号を検出し、
(ⅲ) 一方の系列の一致信号と他方の系列の隣接した一致信号との間の位相差を測定し、
上記各工程を含み、第一インジケータ(TF・TF〇・TF180)と第二インジケータ(6・TM・TM180)との間の、第一の回転軸(7)を中心として形成された角度変位で定められた角度をデジタル値にコーデイングする方法であつて、
前記の位相差の測定に際して、一方の系列の一致信号と他方の系列の隣接した一致信号との間で得られた全位相変位を、第一グループのインジケータと第二グループのインジケータとの間の一回又は数回の完全回転にわたつて累積した上平均化する工程を含み、
前記基準マークの角度間隔の不均一を補償して、角度測定が高精度になるようにしたことを特徴とする角度のデジタルコーデイング方法。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙の一
<省略>
別紙の二
<省略>
別紙の三
<省略>